【9/6】ストライダーエンジョイカップ 北海道ステージ

『これが最後のストライダー謳歌杯だ、悔いの無いよう力の限り、全速力で走るんだ。』私は北の大地でそっと呟く。

※このブログは2014/12のwild runner cupシーサイドライダーズカップ、2015/6のエンジョイカップ東北楽天ステージと連動しています。

お抱え運転手のときさんに連れられて行った東北楽天ステージで雪辱を果たすことを誓ったあの日から、北の大地に降り立つことだけを考えていた。
『父さん、僕に最後のチャンスをくれないか?このままじゃ謳歌杯を卒業できないよ!』
父は遠征には反対していた。
『何を言っているんだ、学業はどうするのカニ。夏休みの宿題も未だ終わっていなイクラいだぞ。』
何となくもう少しで落とせそうな気がする。
『宿題はすぐに終わらせるさ。謳歌杯はこれで最後の参戦にする。最後に、力の限り、走らせて欲しいんだ!』
『そうか、そういう時期が来たんだな。少年よ、大志を抱け!いざ、北の大地、北海道トマムへ!』

01

という訳で父の説得に成功した私は人生初の北海道に降り立ったのだった。

しかし私には目的がある。浮かれた観光気分で来ている訳では決してない。最後の謳歌杯の走り納めなのだ。全力疾走だ。

02

トマムに前日入りした私は早速練習に打ち込んだ。そこでチームメイトのKSとRNの兄妹と合流した。神奈川県の住人とこんなところで会うなんて、不思議な縁を感じながら一緒に練習した。

『父さん…芝が重いよ、スピードが出ないよ…芝の芝◯なんて誰が言ったのさ?』
北の大地は予想以上に広大で、タイヤ、ウッドチップといったいくつもの障害となだらかなアップダウン、そして雨でぬかるんだ重い芝が私の体力を奪う。
父はスピードの出ない私を心配したのか、励ますように言った。
『よーし、父さんと競争だ!』
コースを先導する父さんの後をついて走る。父さん、あまり無理するなよ、足がもつれているよ。
キラリ、光るものを発見した。カードだ。
『父さん、これ何?』
スイカのカード、と父さんが説明してくれたが、私には何のことやらわからない。スイカは好物だが、スイカが食べられるカードなのか?父さんの説明によるとこれが無ければ会社に行けなくなるところだったらしい。涙ながらに私に感謝を述べる。父さん、しっかりしてくれよ。大丈夫、私はひとりでも走れるよ。

03

暮れ行くトマムの大地で、私とKSは翌日の決戦、共に頂点を目指すことを誓って宿に帰ったのだった。

もう一度言おう、ここへは浮かれた観光気分で来ている訳ではない。明日は決戦だ。早めに就寝しぐっすりと睡眠をとり、万全の体調でレースに挑む。それが戦士の心得だ。トマムはリゾートだが、プール?温泉?水の教会?ましてや早朝4時から日の出の雲海を観るなんて、浮かれた観光客のやることだ。

04

戦士は常に体調を万全にして戦いに挑むのだ。
そして夜が明け、決戦の朝が来る。

私は颯爽と挨拶した。
『おはよう、いい朝だ!今日はいよいよ決戦の日だね。』
『あ、ITKさん、おはようございます。わざわざ北海道までお越しいただきありがとうございます。エントリーはお済みですか?』
スタッフから声がかかる。そう、謳歌杯は私はちょっとした顔なのだ。3歳の頃から各地の謳歌杯に参戦し、4歳の茂木大会ではテレビから取材を受けるという栄誉も得た。母もテレビの印象と持ち前の人あたりの良さでスタッフからのウケも良い。ちなみに父はスタッフの印象も薄く、テレビの時はほとんど映っておらず、知り合いからは母子参戦と思われていた。
私はストライダーを卒業した次のスポーツを検討中ではあるが、何が良いかと聞かれれば、テレビに映るやつがいい、と答えることにしている。

さて、最初の登場は妹のRN2歳だ。
『あの〜、RNのレース、終わってますけど。』
えっ!そんなバカな!わざわざ一緒に北海道まで遠征したチームメイトのレースを見逃すなんて!なぜ!もう昼!?まさか雲海観た後に二度寝なんて、、、そんなまさか。心の中は軽いパニックだが、冷静に問いかける。『ああ、そうだったね。それで結果は?』
予選完走、その後敗者復活で見事に勝ち上がり、準決勝を完走した。爆睡中で申し訳ない。

05

次は4歳クラス、兄のKS。昨年に引き続き、2年連続でのトマム出場となる。KS家族は昨年早朝に起きて雲海見学などと浮かれた観光気分で挑んでしまい、レース中に睡魔との戦いとなってしまった。その反省を活かして今年は雲海はパスして万全の体調で挑むのだ。目指すは頂点、ただ一つ。
しかしここは北海道、関東のレースには出場しない強豪もたくさんいる。道産子侮りがたし。
予選、準決勝を順調に1位で通過して迎えた決勝。
KSは緊張したのかスタートでつんのめり最下位でのスタート。しかしそこから巻き返して第一コーナーで1位になるも、アウトから道産子ライダーに被せられてしまい、一歩引いて走る展開に。
『KS、抜けるぞ〜、いけ〜!』
抜けそうなポイントはいくつかあった。しかし一歩及ばずそのままゴールとなった。
準優勝、決して悪くはない結果だ。レース前にKSは2位を目指す、と言っていた。なぜ優勝ではない?と思ったが、その気持ちは私もわかる。常に親や周りからのプレッシャーがかかり頂点を目指すが、そううまくいく訳ではない。その矛盾に耐え切れず、結果、2位を目指す、といった発言になる。しかし、レースの時にそう器用に2位を目指せる訳もなく、いつも全力疾走だ。確かに抜けそうなポイントはあったが力を出し切らなかった訳ではなく、重い芝、障害物も交わして抜くことは想像以上に困難だ。私はKSは全力で戦ったと信じている。

06

さて、いよいよ私の番だ。
予選を1位で通過した私は、ある予感があった。
『父さん、もうすぐ誕生日だよね。』
『そうだけど、それがどうしたんだい?』
『傘を父さんにプレゼントするよ。』
そう、表彰台で頂点に立ったものしかもらえない、あのアンブレラだ。謳歌杯の表彰台では親が呼ばれてアンブレラを持って背後に立つ。父は私の言葉に感動し涙ぐんでいたが、直後にビデオを構えて『もう一度言って』と証拠撮影をしようとしている。撮影マニアめ。
準決勝も1位で通過し、決勝。
このコース設定は単純なストレートから第一コーナーに入る典型的なイン有力なコース。謳歌杯は準決勝順位に関係なくクジ引きでのグリッド決めなので、運も重要だ。今まではうまくインを引けている。しかし、決勝のこの大事なところで、最アウトである12枠を引いてしまった。決勝の選手は、同じ神奈川の新横浜練習会でよく一緒になる選手や福岡に拠点を持つ有名チームからの選手、もちろん地元道産子選手も侮れない。ここで最アウト、父のビデオを持つ手は震えていた。しかし、私は不思議と冷静だった。北海道の大地が私を包み込む。澄み渡る青い空にスタートの前奏が吸い込まれる。
ポ、ポ、ポ、ポーン
3、2、1、スタート。いつも通り、僅かに首を振りスタートのタイミングを計る。
スタート、そこから先は一瞬だった。誰よりも早く第一コーナーに入る、それだけを考えて、いやそれすら考えずに北海道の大地を踏みしめる。蹴り進む。応援の声すら耳に入らない。全力疾走。
気がつくとゴールラインが見えてきた。前には誰もいない。
『おー!』
無意識に雄叫びをあげてゴールラインに入る。泣いている母の顔が目に入る。私も自然と涙が溢れてきた。

ストライダーは終わりの決められているスポーツだ。誰もが何時しか終わりを迎える。5歳の終わりで出場できるレースが減り、小学校に入学すると更に減る。それらのタイミングを機にストライダーを卒業する選手も多い。小学校入学後も、もう少し続けることができるが、それを選択する選手はそれ程多くはない。
しかし、一般のスポーツと同様に、そこまで続かずにリタイヤする選手はもっと多いだろう。子どもに限らずレースや練習の辛さ、自分の限界、人間関係など様々な理由で辞めていくことは多い。しっかりと卒業まで選手を続けられるということは、なんと幸せなことであろう。ましてや、どんな小さな大会だとしてさえも勝利し、祝福を受けることの幸福はなにものにも代え難い。ここまで連れてきてくれた父母に、感謝したい。

07

『父さん、約束のアンブレラだ。誕生日、おめでとう。トマムに連れてきてくれて、ありがとう。』

(了)

 

ストライダーエンジョイカップの運営の皆さんに、心からお礼を申し上げます。レースの創世記の頃から、ストライダージャパンと一緒に素晴らしい大会を運営していただきました。いつも子どもの笑顔を一番に、エンジョイの名に恥じない楽しい大会でした。
スタッフの皆さんは暖かく、本当にどこにいてもホームの気分で挑めました。ITKはこれでエンジョイは卒業となります。最後に最高の思い出となりました。この全ての出会いに感謝します。そしてまたいつか、どこかのスポーツの大会で、大きくなったITKと再会できたらと、その時を楽しみにしています。
ありがとうございました。

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